新宿駅から小田急線に乗った。町田駅を通過すると山並みが視界に入り、のどかな田園風景が広がってきた。あの新宿の喧噪を後にしてから、まだ3〜40分ほどしか経っていないとは信じられない。日本も広いなあと車窓に広がる景色を感慨深げに眺めていると、突如、現代的と言えばよいのか、独創的と言うのがぴったりなのか、巨大かつ個性的なビルが視界に飛び込んできた。「あれはなんだ!」と見ていると、本日の下車駅「愛甲石田駅」に着いた。
 本日訪問するのは神奈川県伊勢原市にある富士通オープンカレッジ愛甲石田校。教室が入っている「FORUM246」の場所を駅前で訪ね、5分程歩くと、なんとあのビルが!
 そう、電車から見たあの個性的なビルが「FORUM246」だったのだ。

 この富士通オープンカレッジ愛甲石田校を運営しているのは職業訓練法人アマダスクールで、「FORUM246」はアマダスクールの親会社(株)アマダが運営している。「職業訓練法人?」と言う、聞き慣れない名前のこのアマダスクール、元は(株)アマダの教育機関として1974年10月に発足した。それから3年半後、労働省より「職業訓練校」の認定を受け、「職業訓練法人アマダスクール」が発足したのだ。様々な企業の研修や講習を行ってきたところなのだから、パソコンだってお手のものである。
 ところでこの「FORUM246」、建物内部は宿泊や宴会ができ、チャペルやフィットネスクラブも備えた、都心のシティホテルさながらの造りである。「ここでパソコンの勉強?」なんか場違いな気がしないでもないが、これまで訪問した教室の中で、豪華さではピカイチだろう。

 
2週間でブラインドタッチをマスターした大石亀重さん

 教室に入ると、生徒さんはなんと2人。そこにインストラクターが1人付くのだから、器に違わず授業風景も贅沢である。このゴージャス授業を受けられる幸せ者の一人は大石亀重さん。この大石さん、なんと2週間でブラインドタッチをマスターしたというのだ。私など、パソコンを使い始めて何年にもなるが、いまだにパソコンの前に座った途端、なぜか指が言うことを聞いてくれなくなるのだから、どうやってマスターしたのか、興味津々である。早速、聞いてみると「まず、第一段階として、アルファベットとかなを打って、打って、打ちまくり、とにかくキーボードを指に覚えさせること。第一段階が終了したら、次は新聞の社説や折り込み広告をテキストにして、また入力の練習。社説に出てくる難しい言葉やチラシのカタカナ文字を打つのが良い練習になるんです。その段階が終了したら、最後にイメージトレーニング!」最後に言った“イメージトレーニング”が?だったので、どんなことをするのかと聞いてみると、なんと目をつぶって頭の中で入力したというのだから、これはすごい!ここまで真剣に取り組めば習得できるのである。できないのは歳のせいではなく、心意気も問題だったのだと、暫し反省させられた。やはり努力があるからこそなのである。

 
 
大石さんのブラインド
タッチ・ポジション

  ところで、こんなすごい努力をするきっかけになった、パソコンとの出会いは一体何だったのだろうと水を向けると、毎日している犬の散歩で30代、40代の方々と知り合い、パソコンの話題があまりにも多いので、会話についていくためにパソコンを購入し、今年の5月から教室に通い始めたという。パソコンを始める前、家電屋の店頭にあるパソコンに触り、変わった画面を元に戻せなくなって、奥さんと二人青くなってその場から逃げ帰ったというエピソードと今の姿はとても結び付かない。

『タイプトレーナー』でタイピング練習した奈良孝さん

 もう一方の幸せ者は奈良孝さん。奈良さんは今年3月に定年退職され、いまは悠々自適の生活である。24時間自由になった定年後、真剣に取り組もうとパソコンを購入。7月から教室に通いだした。「この建物に惚れたんです。今でも来るたびにワクワクします」と「FORUM246」のハイテクな容姿が気に入って通い始めたことを話してくれた。通い初めて6ヶ月あまり。いまでは中国にいる娘さんがメル友になるほどパソコンを使いこなし生活の中にとけ込ませているそうだ。
 奈良さんのタイピングの腕前も、大石さんに負けず劣らずブラインドタッチとまではいかないが、たいしたものである。
 「タイピングの練習は『窓の杜』にあった『タイプトレーナー』というソフトで練習したんです」とのことだった。「現在はこのサイトにある『カーレース』にチャレンジしているのですがなかなか上手くいかないのです」と、窓の杜の愛用者ブリをご披露してくれた。

「窓の杜」(まどのもり)は、Windows用オンラインソフトの紹介サイト。オンラインソフトをダウンロードするための「ダウンロードサイト」と、ニュースや記事を掲載する「窓の杜Webサイト」の2種類がある。名称は、Windowsを「窓」、ソフトがたくさんある様を「森」にたとえた。もともとこのサイトの創設者が仙台出身者だったので杜の都仙台にちなんで「森」を「杜」の字にあてた。
http://www.forest.impress.co.jp/

 また、定年を迎えるにあたり奥様と約束したことがあったそうだ。それは「週に2〜3度は食事を作ること」である。それを忠実に実践するため、インターネットを使い、新作料理のレシピ収集を行っているそうだ。奈良さん一押しのホームページは「キューピー3分クッキング」。最近のヒット作は「もつ煮」だそうで、奥様から大好評だったと鼻を鳴らした。努力の甲斐あって、いまでは周りも一目置く料理上手になったとちょっぴり鼻高々である。何とも微笑ましい話ではないか。

 大石さんも負けてはいない。今秋、奥さんの妹さんから「松茸をもらったんだけど、どう料理すればいい?」とのSOSに、インターネット上から松茸ご飯のレシピを見つけだし、アドバイスしたという。その松茸ご飯、大変好評で大石さんご夫妻もご相伴に預かったそうだ。「これもパソコンを始めたお陰です」とその時の味を思い出しながら話してくれた。

インストラクターの
松田佳子さん

 インストラクターの松田佳子さんにこの贅沢な授業について聞いてみると「授業内容は二人と相談しながら決めています。二人とも勉強熱心で、特に大石さんのブラインドタッチには私も驚きました。私もこの熱心さに引っ張られ、良い刺激をもらっています」と、目を丸くしながら話してくれた。また、「『窓の杜』を手放せない奈良さんの影響もあって“ダウンロード”“圧縮”“解凍”を勉強するために、1ヶ月間の特別カリキュラムを組んだこともあるんですよ」と。まさしくカスタムメードのオープンカレッジといったところである。松田インストラクターと二人の生徒さんが交わす会話を聞いていると、始めてから半年ちょっととはとても思えない高度な内容である。そこからも二人の真剣さを伺い知ることが出来た。

アマダスクールの
川島比呂子さん

 アマダスクール 事業企画部PCグループの川島比呂子さんにオープンカレッジに対する姿勢をお伺いした。
 「ここ数年でパソコンユーザーが変化しています。つまり、パソコンの用途が『仕事に使う』から『趣味の世界』へと移行しているのです。機能的にも役割にしてもパソコンの存在が家電に近づいたと言っても良いでしょう。『パソコンをする』から『パソコンでする』に変わってきているのです」との言葉に、大石さんと奈良さんの姿が浮かんだ。「だから、生活を楽しく豊かにするために、そのサポート役としてのパソコンが生活に、いかにとけ込むことをテーマにパソコン教室を運営していきたと思っています」と、とても素晴らしい考えを聞いた。

 そう、パソコンはそれを扱うのが目的ではなく、目的に近づくために使う道具だったんだ。道具は使いこなさなければいけない。「もっと勉強しなければ!」と心に誓って教室を後にした。

 最後にもう一言。百聞は一見に如かず、「FORUM246」へ一度は訪れるべきです。(株)アマダを知り、モノ作りの原点を見る思いがするすると同時に、建物だけでなく、システム、ゴージャスさに本当にビックリします。