東京23区の南端、神奈川県との県境に位置する大田区には昔から精密機械部品等の町工場が密集し、日本の高度経済成長を支えてきた。21世紀、高度経済成長を支えたこの地域から、また新しい潮流が始まろうとしている。

「パソコンふれあいコーナー」 (大田区:池上図書館1階)
午前10時〜午後5時
今年度は開催しておりません。

 大田区の池上図書館にある「パソコンふれあいコーナー」を訪ねると、図書館の静寂とは似つかわしくない(?)和気藹々としたおしゃべりが聞こえてきた。室内を見渡すと、なんとシニアばかり!ときたま笑い声も混じるが、みんな真剣な表情でパソコンに向かっていた。
 この「パソコンふれあいコーナー」は、昨年日本全国で実施されたIT講習の副産物だという。大田区では約1万8千300人のパソコン初心者がこの講習を受講した。そのとき受講生からとったアンケートの「もっと続けたい」との声をもとに、この講習のために区が調達したパソコンの嫁入り先が決まった。パソコンたちは、ここ池上図書館の他に「大田文化の森 マルチメディアコーナー」「産業プラザ 情報コーナー」に無事嫁いだという。このパソコン達を操り、特にシニアの方々にパソコン普及を実践しているのが富士通ラーニングメディアとSITAさん達である。

 
 
田中 保さん

 最初に目に飛び込んできたのは、画面一杯に抽象画を真剣な眼差しで描いていた男性であった。多分、樹木ではないかと思われる色とりどりの固まりの下を、車とおぼしき物体が横たわっていた。「これって車ですか?」おそるおそる尋ねた。「分かりますか」自信のない返事が返ってきた。それもそのはず、生まれて初めてマウスに触って、まだわずか30分。全くの初心者がここまでの絵を描くとは・・・。本日の取材は、SITAさんの教え方の素晴らしさに驚嘆することから始まった。
 天才画家(?)の名は田中さん。56才になるまで、世の中に溢れていたITの二文字にはとんと無縁で生きたきた。その田中さんが一念発起して、ここ「パソコンふれあいコーナー」へ足を運んだ理由は何であったか。「先日、岡山県での選挙が電子投票になったことを知り『いよいよITが身近になってきたな』と感じたことがきっかけなんです」今までの取材でいろいろな動機を聞いたが、選挙が後押ししたとは驚きであった。

 
4月に内孫の一人を連れて熊本へ遊びに行きました。熊本には長女が居りおります。孫同士は大の仲良しです。
この写真は桜が満開の熊本城で、長女が撮ってくれた写真でとても気に入っています。
私の大事な孫を紹介します。右から睦実11才、美莉5歳、亜星4歳、大樹8歳です。
 

 柔和な顔でパソコンに向かっていた江原さんは昨夏IT講習を12時間受講したという。その際、受講生へのアンケートで「『もっと続けたい』とこたえたの。だからこのパソコンコーナーがスタートすることを聞いて『アッ!私の願いが届いた』と思ったの」と、目を輝かせて語ってくれた。12時間の受講後、早速パソコンを購入し、熊本に住む娘さんとのメールを一番の楽しみにしているそうだ。メールで送られてくる写真のお孫さん達の成長ぶりに目を細めるかわいいおばあちゃんである。「江原さん、お孫さんの写真を編集部まで是非メールしてください」と、大丈夫かなと思いつつもお願いしてみた。すると即座に「ハイ、分かりました」と。そして届いた写真が桜をバックにお孫さんと一緒に写っている写真である。

 木訥な口調が人の良さを感じさせる大金さんはなんと70歳。現役でお仕事をされていて、仕事を終えた夜、パソコンに向かうときが最も楽しいひとときという。パソコンを始めたきっかけを聞いてみると「ぼけ防止!」と即答された。ぼけ防止のために始めたパソコンであるが、パソコンに向かうことによって夜遊び(?)やお酒の量が減って、とても健康的な生活をおくっているという。なるほど!パソコンは健康にも寄与しているようだ。

左から大河原 仁インストラクター、大金さん、 江原さん
 
 
 
大嶋さんご夫妻

 大嶋さんはご夫婦でここパソコンコーナーへ仲良く通っているという。奥様は今年1月IT講習を修了し、翌2月にはパソコンを購入してしまったほどパソコンにはまってしまった。考古学が好きで、考古学関連のサイトを見たり、これまで携帯電話で送っていたメールをパソコンに切り替えたりと、いまではパソコンがあるのが当たり前の生活になってしまったという。6月にこのコーナーのことを知り、午前中のパート勤務が終わるやいなや、このコーナーに駆けつけているそうだ。「ここのインストラクターの方は全てが私と同世代の方でとても安心して何でも聞くことができるんです」とSITAさんをベタ誉め。一方、ご主人はデザインが趣味でいろいろな作品を創って楽しんでいるという。「それ程デザインが好きならホームページを制作するといいですね」と問いかけると「それにはソフトが必要なんです。が、しかし・・・」と隣の奥さまの顔に目をやった。その合図に応えようとしない様子を見て、大嶋家の力関係が判明した。とはいえ、羨ましいほどに仲の良いご夫婦であった。この夫婦愛を育んでいるのはパソコンではないかと思った次第である。

 この日、インストラクターを務めていたのは、SITA1級取得の松村さんと大河原さんで「このコーナーに来ると勉強になるんですよ」とお二人の意見が一致した。SITA1級を持っているお二人の「勉強になる」という言葉に首を傾げていると「段々と高度な技術を使うようになると、初歩的なことを忘れてしまうんですよ。先日、ローマ字入力と日本語入力との切り替えを訊ねられ、忘れていたことに気づき、その場で受講生と一緒に大河原さんに教わりました」と松村さんは苦笑された。その大河原さん、実はMOT(※参照)にチャレンジしている程の力量の持ち主である。まだ合格していないのだが、このMOTという資格、実にすごい資格なのである。これにチャレンジしているというだけでも尊敬してしまう。日本のシニアもなかなかやるもんだ。
 そんな大河原さんがSITAに出会い、SITA1級にチャレンジしたのは昨年の夏だったそうだ。「私は現在65才ですが気持ちはまだまだ若者には負けないゾ!といった姿勢でいますので、シニア向けの資格などと甘く見てチャレンジしたら見事失敗」とはいえ筆記試験は全て満点だったというから天晴れである。「『私が落ちるわけがない』と、SITAを甘く見た心構えを反省し、対策講座も受け、本当に一生懸命勉強しました」勿論、その甲斐あって2度目で見事クリア。晴れてSITA1級取得者となったのである。なかなかおしゃれな大河原さん。確かに若者には負けないゾといった気概は体中から発散していた。

 
大河原 仁インストラクター
 
松村和子インストラクター

 SITA取得者の取材を通して感じたことは全ての方がドラマをお持ちで、そのストーリーには実に逞しさがにじんでいることである。このSITAさん達の逞しさに触れ、また、インストラクターだけでなく受講生の逞しさに触れ、日本の高度経済成長を支えたシニアさん達のパワーが、これからの高齢社会を支えていくことは間違いないだろうと実感した。「パソコンふれあいコーナー」の取材はそんな思いを実感させてくれた、楽しくもあり、また、希望を抱かせてくれた取材であった。

 
※MOTとは
MOTは、Microsoft Official Trainer(マイクロソフト オフィシャル トレーナー)の略で、モットと呼ぶ。Microsoft Officeの製品に関する正しい知識とインストラクション知識を有する者にマイクロソフトが付与する資格。製品とそのバージョンごとに設定された科目試験に受かるとMOTになる。そして「知識」と「操作技術」を問うテストに合格し、はじめてそのバージョン製品の資格を得ることができる。